| 無 題 目覚めたものの、目を閉じれば再び心地よい眠りに引き戻されそうな、朝のまどろみ… やくざな稼業のこの男とて、人間。当然そういう時もある。 朝と知覚しても、そのまま布団と同化してしまいたいような温もりの心地よさに、上掛けを体に巻きつけるように引き寄せ、今日は休みだったはずだとおぼろげに思い出しながら、再び眠りの世界に誘われるまま戻ろうとすれば、自分の隣でもぞりとなにやら動く気配がした。 そういえばなんとなく腰がだるい ふわふわとした心地の中、そういえば昨日は誰かの相手をしたんだったか?と、ベッドを共にあたためてくれるボランティアをしてくれるような女の顔を何人か思い浮かべてみるが、昨夜は彼女らのいる店のどれかに入ったという記憶はない。 一応、そういうことをした相手と共に迎える朝は、礼というわけでもないが、簡単な朝食を準備しておく主義の、妙なところでマメな男であるが、今はもう少しだらだら布団に包まっていたい気分である。 そういえば誰かと飲んだような気はするが… 眠りにつくまでのわずかな時間を潰すように、深く思い出す気もなく、少しだけ記憶を辿り始めたところで、背後から首にかじりつくように、腕が絡みついてきた。 当然背中には、ふわんとしたマシュマロの塊のような双球が押し当たるものと思ったが……あったかいことはあったかいが、胸はぺたんこ。そしてなにやら自分の尻のあたりに、ぐにゃりと柔らかいが細長くて棒状のものが…… 気づかなかったことにして、睡魔に流されたらどんなに幸せかと思いつつ、それでも気づいてしまったからには確かめねば気持ち悪い… 自分に巻きついている腕をゆるめ、遠藤は体の向きを替え、ベッドを共にしている相手を確かめた。 えーっとー…… いたのは打ち捨てられた野良犬のような青年。カイジである。 レディの菊のご門は試したことはあっても、自分と同じナニがぶら下がっている生き物にぶち込むなんざ冗談じゃないっ!という、性的嗜好は比較的多数派に属するはずなのに、これは一体どうしたことか?遠藤は眉間に深い皺を寄せた。 昨日一緒に飲んだのはこいつか?…うー思い出せねぇ… もう一度よくカイジを観察すれば、カイジの頬には白い涙の跡が残っている。そういえばやたら『痛い痛い』と吼える男の声を聞いたような気はするが……女性陣には紳士的に接する遠藤だが、カイジにはいろいろ腹に据えかねることがあるのか、なにやら無体を働いたらしい。 なにが悲しゅうて、野郎なんざと一緒にベッドで朝を迎えにゃあならんのだ。 体はまだ布団が名残惜しいと訴えるが、ともかく起きて忌まわしい出来事を洗い流すべくシャワーを、と起きようとしたところで、再びカイジの腕が巻きついてきた。 「おとうさ……」 引っぺがそうとしたところでそんなセリフを聞いて、遠藤は硬直する。 俺はそんな歳じゃないっ 条件反射的にそう思ったものの、でもちょっと生き急いで早めの結婚をした中学時代の同窓生には、実際このくらいの息子はいる。ついでに今思春期真っ盛りの子供なら、いてもおかしくない年齢であることを、思い出したくもないのに思い出してしまった。 このっ 腹立ち紛れに叩き起こしてやろうかとも思ったが、すぐに思い直したのは、気持ち悪くもすりすりと頬擦りしてきて、再び同じように父を呼ぶカイジに、父親がいないことを思い出したためである。 動作からして夢の中では小さな子供に還っているのかもしれないカイジの、もう会うことも叶わぬ父との邂逅を邪魔するのはいささか不憫と感じてしまった。 遠藤は小さく舌打し、内心男同士で裸でこんなこと、気色悪いと思いつつも、カイジの背にそっと両手を回した。 まったく覚えてはおらぬが、状況からしてなにやら手ひどくしてしまったことの、せめてもの侘びのつもりである。 まったく俺も、なにやってんだか… そう思いながらも瞼を閉じれば、人の肌のぬくもりは優しく…… 人の温度を感じながら、とろとろと眠りに落ちてゆくのは至福だった。 で、起きたカイジに気持ち悪いと吼えられて、速攻風呂場にダッシュされて、なにやら傷つく中年の悪徳金融業社長。 これも基本だと思いますが、この前のよりはある程度思い通りに書けてよかった。 (リハビリ中) |